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大阪地方裁判所 平成5年(ワ)12687号 判決

原告

本田剛

ほか一名

被告

山野好道

ほか二名

主文

一  被告岸本徹は、原告本田剛に対し金五三〇万一九六五円及び内金四八〇万一九六五円に対する平成五年七月四日から支払済みまで年五分の割合による金員、原告本田幸子に対し、金四三〇万一九六五円及び内金三九〇万一九六五円に対する平成五年七月四日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二  被告山野好道及び彼告山野ミヤ子は、原告本田剛に対し、各金二六五万〇九八二円及び内金二四〇万〇九八二円に対する平成五年七月四日から支払済みまで年五分の割合による金員、原告本田幸子に対し、各金二一五万〇九八二円及び内金一九五万〇九八二円に対する平成五年七月四日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用はこれを四分し、その三を原告らの、その一を被告らの負担とする。

五  この判決は、第一、第二項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは各自、原告本田剛に対七金二二四六万九六七一円及び内金一九〇六万九六七一円に対する平成五年七月四日から支払い済みまで年五分の割合の金員、原告本田幸子に対し、金二一三六万九六七一円及び内金一八〇六万九六七一円に対する平成五年七月四日から支払い済みまで年五分の割合の金員をそれぞれ支払え。

第二事案の概要

普通乗用自動車と普通貨物自動車の衝突事故によつて普通貨物自動車の同乗者が死亡した事故において、被害者の遺族が、普通乗用自動車の運転者及び普通貨物自動車の運転者の相続人に対して、自賠法三条、民法七〇九条に基づき、損害賠償を請求した事案である。

一  当事者に争いがない事実

1  本件事故の発生

平成五年七月四日午前二時頃、大阪府四条畷市雁屋西町四番三号先所在の、南北の直線道路と西側に延びる交差道路の交わるT字型交差点(本件交差点)において、亡山野博章(亡博章)運転、亡本田千夏(亡千夏)同乗の普通貨物自動車(大阪四一え三五一一)(山野車両)が、北から西に右折しようとしたところ、南から北に直進進行中の被告徹運転の普通乗用自動車(大阪七七そ五二四)(岸本車両)と衝突した。

2  被告好道、被告ミヤ子の責任

亡博章は、山野車両の保有者であつて、山野車両を自己のために運行していたところ、本件事故を引き起こした。

亡博章は、本件事故で死亡したところ、被告好道及び被告ミヤ子は、亡博章の両親であつて、亡博章に他に相続人がないから、その債務を各二分の一ずつ相続した。

3  被告徹の責任

被告徹は、岸本車両の保有者であつて、岸本車両を事故のために運行していたところ、本件事故を引き起こしたものであるので、自賠法三条によつて、亡千夏に発生した損害を賠償する責任がある。

4  亡千夏の死亡

亡千夏は、本件事故によつて、脳挫傷等の傷害を負い、本件事故当日死亡した。

5  相続

原告らは、亡千夏の両親で、池に相続人はないから、その損害賠償債権を各二分の一ずつ相続した。

6  既払い

原告らは、本件事故に対する損害賠償として、自賠責保険から三〇〇〇万円、被告岸本から二〇〇万円、被告山野らから一〇〇万円の合計三三〇〇万円の支払いを受けた。

二  争点

1  損害

(一) 原告ら主張

逸失利益三六一三万九三四二円(296万0300円×24.416×0.5、亡千夏は、本件事故当時一五歳で、美容専門学校の学生であつたから、基礎収入は、平成四年度の女子労働者中、美容師の全年齢平均賃金によるべきである。)、亡千夏の慰藉料二〇〇〇万円、原告ら固有の慰藉料各五〇〇万円、葬儀費用(原告剛)一〇〇万円

(二) 被告ら主張

不知ないし争う。特に、逸失利益算定の際の基礎収入は、一八ないし一九歳の女子労働者の平均賃金によるべきである。

2  過失泪殺

(一) 披告ら主張

本件事故の発生には、亡博章の飲酒による判断力の低下による運転操作・判断ミスの過失があるところ、亡千夏は、亡博章が酒を飲む際同行しているのだから、亡博章が酒に酔つた状態であることを十分知りながら、運転を制止せず同乗したもので、その過失が本件事故を引き起こした。また、亡千夏は、シートベルトを装着していなかつたが、本件事故により車外に放り出され、脳挫傷によつて死亡していることから、そのことが、亡千夏の死亡に大きく影響を与えた。これらの点から、損害の全体から相当割合減ずべきである。仮に、亡千夏に、損害全体から減額するほどの帰責事由がないとしても、慰藉料の減額要素とすべきである。

(二) 原告ら主張

争う。亡千夏がシートベルトをしていなかつたと認めるに足る証拠はない。

第三争点に対する判断

一  過失相殺

1  本件事故の態様

(一) 前記認定の事実に、乙三ないし六、七の1、2、弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

亡千夏(昭和五二年七月二八日生、本件事故当時一五歳、女子)及び交際中であつた亡博章(昭和四七年五月二七日、本件事故当時二一歳、男子)は、本件事故の前日の平成五年七月五日午後五時以降、亡千夏の通う美容専門学校の同級生の岡本蘭とともに、カラオケボツクスに行き、酒類を飲み、午後一〇時半頃から同人等の他右学佼の同級生の河西佐和子、亡博章の友達と共に居酒屋でビール等を飲んだ。亡博章は、翌六日午前一時頃、蘭、佐和子を山野車両の後部座席に、亡千夏を助手席に同乗させ、夜景をみるため、山野車両を運転し、ドライブを始めたが、同日午前二時頃、本件交差点を北から西に右折していたところ、折から、対向して高速で直進していた岸本車両と衝突し、山野車両は横倒しになり、亡博章、亡千夏、佐和子は山野車両から投出され、そのうち、亡千夏は、前頭部及び顔面を打撲し、脳挫傷、脳内出血の傷害を負い、そのころ死亡した。なお、その際、亡博章、亡千夏、佐和子、蘭ともシートベルトはしていなかつた。同日午前四時の、亡博章の血中アルコール濃度は一ミリリツトルあたり一・六五八ミリグラムであつた。

(二) なお、原告らは、亡千夏がシートベルトをしていなかつたと認めるに足る証拠はないと主張するものの、右事実は、乙四によつて認められる。

2  右認定の事実からすると、被告岸本の前方不注視、速度違反の他、亡博章の前方不注視の過失も本件事故の一因で、右過失には、飲酒も相当程度影響していたと推認できるところ、亡千夏は、亡博章とともに長時間飲酒した上、飲酒運転を止めることなく同乗したものであつて、本件事故には亡千夏の右過失も影響していると認められ、公平の見地から損害の全体からある程度過失相殺すべきところ、前記認定の各事実、特に、亡千夏と亡博章のそれぞれの年齢を考慮すると、その割合は一割が相当である。なお、シートベルトの点は、山野車両が横転しており、装着していても死亡を免れたとまでは認められないから、過失相殺の事由としない。

二  損害(小数点以下切り捨て)

1  逸失利益 二三三三万七七〇〇円

甲二、三、四、乙五によると、亡千夏は、本件事故当時、一五歳の健康な女子で、美容専門学校の学生で、将来は美容師となる意思を有していたと認められるが、末だ就労前であるから、将来的に継続して、六七歳まで美容師の全年齢平均賃金を得る蓋然性までは認められない。したがつて、基礎収入は平成五年度賃金センサス産業計・企業規模計・中卒女子労働者一八歳ないし一九歳の平均収入である二〇七万一七〇〇円を基礎とし、稼働年齢を一八歳から六七歳とし、新ホフマン係数によつて中間利息を控除し、事故時の現価を算出すると左のとおりとなる。

207万1700円×(25.261-2.731)×0.5=2333万7700円

2  亡千夏の慰藉料一六〇〇万円、原告ら固有の慰藉料各三〇〇万円亡千夏の年齢、家族構成等一切の事情を考慮すると、右額が相当である。

3  葬儀費用 一〇〇万円(原告剛固有)

原告主張の右額は相当である。

4  損害合計 原告剛二三六六万八八五〇円、原告幸子二二六六万八八五〇円

亡千夏の損害は三九三三万七七〇〇円となり、相続を考慮した上、原告剛の固有の損害四〇〇万円、原告幸子の固有の損害三〇〇万円を加えると、右のとおりとなる。

5  過失相殺後の損害 原告剛二一三〇万一九六五円、原告幸子二〇四〇万一九六五円

三  既払い後の損害 原告剛四八〇万一九六五円、原告幸子三九〇万一九六五円

前記のとおり、原告らは、本件事故の損害賠償として合計三三〇〇万円の支払いを受けたところ、相続分にしたがい、各一六五〇万円ずつそれぞれの損害に填補されたと推認できるから、控除後の損害は右のとおりとなる。

四  弁護士費用 原告剛五〇万円、原告幸子四〇万円

本訴の経過、認容額等に照らすと、右額が相当である。

五  結語

よつて、原告らの請求は、原告剛が被告岸本に対し五三〇万一九六五円、被告山野らに対し各二六五万〇九八二円、原告幸子が被告岸本に対し四三〇万一九六五円、被告山野らに対し各二一五万〇九八二円及び内、原告剛が被告岸本に対し四八〇万一九六五円、被告山野らに対し各二四〇万〇九八二円、原告幸子が被告岸本に対し三九〇万一九六五円、原告幸子が被告山野らに対し各一九五万〇九八二円に対する不法行為の日である平成五年七月四日から支払い済みまでの民法所定の年五分の割合の遅延損害金(いずれの原告についても、被告山野らの各債務はそれぞれその額の限度で被告岸本に対する債務と不真正連帯債務となり、被告山野らの各債務は分割債務である。)の支払いを求める限度で理由がある。

(裁判官 水野有子)

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